恒例の、2011年度の私の選んだワーストテンを発表します。例年の通り、単に出来の悪い作品よりも、期待している作家がその期待を大きく裏切った場合に、厳しく採点しているケースがあります。対象期間はベスト20と同様、'2011年1月〜12月大阪公開作品。なお、僅かしかありませんが、ベスト20と同様、アンダーライン付の作品は、クリックすれば作品批評にジャンプします (戻る場合はベスト20と同様、ツールバーの「戻る」を使用してください)。 では発表します。
順位 | 作 品 名 | 監 督 |
1 | セカンド・バージン | 黒崎 博 |
2 | ランウェイ☆ビート | 大谷 健太郎 |
3 | さや侍 | 松本 人志 |
4 | 源氏物語 千年の謎 | 鶴橋 康夫 |
5 | こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE 〜勝どき橋を封鎖せよ!〜 | 川村 泰祐 |
6 | シャンハイ | ミカエル・ハフストローム |
7 | 一命 | 三池 崇史 |
8 | トランスフォーマー ダークサイド・ムーン | マイケル・ベイ |
9 | GANTZ PERFECT ANSWER | 佐藤 信介 |
10 | アントキノイノチ | 瀬々 敬久 |
次 | スカイライン−征服− | グレッグ・ストラウス、コリン・ストラウス |
1位の「セカンド・バージン」は、NHKの人気ドラマの映画化で、本作はテレビ版の後日譚という事らしい。しかし、人物関係がまったく説明されないまま、いきなり物語が始まるのには参った。どうやら製作者は、映画を観る人全員がテレビドラマを観ているものとの前提で作ってるようだ。NHKなんかほとんど見ない私は当然観ていない。しかしテレビドラマの映画化だろうが何だろうが、、映画は映画自体で、起承転結のあるドラマ展開にすべきである。本作は最初から最後まで、男は寝てるだけ、女は看病してるだけ。まるでストーリーは停滞したまま。これでは文字通り、話にならない。無論、「スター・トレック」や「踊る大捜査線」など、テレビドラマを映画化した作品は結構あり、それらは人物設定が出来上がっている場合も多い。が、それでも映画の方はきちんとしたドラマがあって、テレビを観ていなかった私でもすんなり楽しめた。当然そうあるべきである。脚本は大石静。確か3年前にも、「まぼろしの邪馬台国」(堤幸彦監督)という、これもヒドい映画(ワーストテンに入れた)の脚本を書いていたはず。テレビでは実績はあっても、映画脚本を書いたらこの程度である。監督もテレビ・ディレクターらしいが、映画をナメているのではないか。テレビで放映するだけならまだしも、金を取って見せるシロモノではない。関係者は全員反省して欲しい。
2位のランウェイ☆ビートについては作品評参照のこと。高校文化祭ものが当っているから、若者に人気のファッションとドッキングしたらもっと客が来るだろう…とのスケベ心で企画されたのがみえみえ。が、そうした企画であっても、脚本を練ってきちんとした物語に仕上げるのがプロの仕事だろう。「avec mon mari」で注目され、「とらばいゆ」、「NANA」等、まずまずの作品を監督して来た大谷健太郎に期待しているからこそ、点も辛くなるのである。次回作では、捲土重来を期して欲しい。
3位は「さや侍」。松本人志監督作品の3作目だが、毎回作る度にあちこちでワーストの槍玉に挙げられてるのに、懲りない人だ(笑)。本作は一応ストーリーがあり、多少はマシになって来てはいるが、やっぱりつまらない。脱藩したくらいで、他所の藩にまで懸賞金付手配書が回ったりはしないだろう。しかも、刀は持たず、からっきし腕も立たないようだから、捕まえて差し出せばいいのに、殺し屋連中はなんで殺そうとするのだろうか。さらに、頚動脈から血が吹き出てたり、頭を銃で撃ち抜かれたり、どう見ても致命傷なのに、なんで死なないのだろうか。医者に見せてる様子もないのに。不死身なのか?…と最初から突っ込みどころだらけ。「三十日の業」もどれもつまらなくて全然笑えない。一晩でどうやってあれだけ大掛かりな装置を作れるのかと、ここでも突っ込みどころだらけ。主役の男性は素人らしいが、ヘタだけならともかく、全くやる気が見えない演技にも困りもの。お笑い番組のコントどまりで、とても映画館にかけられるシロモノではない。松本監督には、映画の中の、このセリフを返してあげたい。「切腹申しつける」。
4位「源氏物語 千年の謎」。題名を聞いて、10年前に作られてワースト賞を総ナメにした「千年の恋/ひかる源氏物語」を思い出してしまった。で、やっぱり、作者の紫式部と、源氏物語のお話の世界が並行して進む、という、前作とほとんど同じ内容。で、やっぱり面白くない。安倍晴明がどっちの世界にも登場する意味も不明。途中でホラーみたいなシーンが出て来るのも「源氏物語」とは全く不釣合い。同じ「千年」を謳った作品でも、アニメ「マイマイ新子と千年の魔法」の方が千倍面白い。鶴橋康夫さんはテレビドラマでは秀作を演出しているのだが、映画を監督するとなんでこんな出来になってしまうのだろうか。
5位「こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE 〜勝どき橋を封鎖せよ!〜」。原作はギャグマンガである。ならもっとギャグを連発して笑わせて欲しい。ところが、黒澤「天国と地獄」ばりの誘拐に始まり、結構本格的な犯罪サスペンス・ドラマが展開して行く。それだけならまだしも、両さんがちょっとしたヒントから、杉下右京ばりに捜査本部よりも早く真犯人を見つけてしまうのにはひっくり返った。ヘリで船に飛び移って犯人と対決するラストまで、ほとんど「踊る大捜査線」か「相棒」を観ている気分であった。お話は悪くないけど、「こち亀」でやる話じゃないだろう。この為、ずうずうしくてトンマでドジだったはずの両津巡査のキャラクターが、途中からコロコロ変わって行って、すごく中途半端になってしまった。両さんを主人公にするなら、「ピンクパンサー」のクルーゾー警部なみに、勘違いとドジを繰り返して事件をどんどんややこしくする等、観客が大笑いするコメディに作り上げるべきである。ついでだが、勝どき橋が開くと言って、嘘つき呼ばわりされてしまうという話もおかしい。郷土史の本でも図書館の資料でも、勝どき橋が開いてる写真はいくらでもあるはずだからそれらを見せれば済む話だ。まあとにかく、せっかくのストーリーも、主人公のキャラも、どっちも殺してしまってる、中途半端な作品である。
6位「シャンハイ」。豪華国際スターが共演する壮大なスケールのサスペンス歴史ドラマ。…とばかり思っていたのに、サスペンスは判り難くて入り込めず、かと言ってラブロマンスも盛り上がらず。何よりも、それぞれの登場人物のキャラクターがきちんと描き切れていない。菊地凛子に至っては、ほとんど寝てるだけで可哀想。「構想10年」とか「世界を揺るがす陰謀」とか「その愛は20世紀最大の罪となる」とかの大げさな宣伝文句にすっかり騙されてしまった。DVDが出ても見ない事をお奨めする。
7位「一命」。三池崇史監督だけに、もっと面白くなるかと期待したのだが。三池版「十三人の刺客」が良かったのはやはり脚本(天願大介)がよく出来ていたから。本家の小林正樹監督「切腹」が傑作になったのも、橋本忍の渾身の脚本の力による所が大きい。本作も、実力のある脚本家にまかせればもうちょっとマシになったかも。「切腹」を観ていない人ならそこそこは楽しめるだろうが、「切腹」に感銘を受けた方は観ない方がいいと思いますよ。
8位「トランスフォーマー ダークサイド・ムーン」。はっきり言って、前作でガックリ。CGがどんどんハデになるだけで、全然面白くない。マイケル・ベイの演出はとにかくガサツ。同じロボットものなら、「リアル・スティール」の方が100倍面白くて感動的。
9位「GANTZ PERFECT ANSWER」。1作目を観る限りは、なかなか面白かった。パート2の本作でどうまとめるのかと期待したのだが。結局ほとんど決着付かないままに終った。あのラストは何なんだ。もっとさまざまな伏線を配し、それらを巧みに回収して行って、ラストでなるほど、と膝を叩きたくなるオチを用意していたら大いに評価したのだが。
10位「アントキノイノチ」。
遺品整理業という、ユニークな業種に着目した点が面白い。うまく行けば「おくりびと」のような傑作になる可能性があったのだが、ひきこもり、イジメ、自殺といろんな要素を詰め込み過ぎ、焦点がボヤけてしまっている。岡田将生扮する杏平の、イジメの話に物語の大半が割かれているのはどうかと思う。亡くなった人、遺族のそれぞれの思い、人生にもっと話を絞るべきだった。ダジャレまがいの題名も不適切。次点「スカイライン−征服−」。出だしは面白いのだが、ひたすら逃げ回るだけで、お話が単調。だんだん飽きて来た。人物描写もおざなり。
やっぱり今年も、10本中8本が日本映画という結果になった。まあ、例年のような、飛び抜けて酷い作品は少なかったように思う。
ついでに、ワーストの予感がして見る気がしなかった作品を以下に列記。「デビルクエスト」、「DOG×POLICE 純白の絆」、「アンフェア
the answer」、「東京オアシス」。…当ってたかな。