恒例の、2010年度の私の選んだワーストテンを発表します。例年の通り、単に出来の悪い作品よりも、期待している作家がその期待を大きく裏切った場合に、厳しく採点しているケースがあります。対象期間はベスト20と同様、'2010年1月〜12月大阪公開作品。なお、あまり多くはないですが、ベスト20と同様、アンダーライン付の作品は、クリックすれば作品批評にジャンプします (戻る場合はベスト20と同様、ツールバーの「戻る」を使用してください)。 では発表します。

順位 作  品  名 監    督
座頭市 THE LAST 阪本 順治
シュアリー・サムデイ 小栗 旬
誰かが私にキスをした ハンス・カノーザ
食堂かたつむり 富永 まい
踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ! 本広 克行
死刑台のエレベーター 緒方 明
マザーウォーター 松本 佳奈
運命のボタン リチャード・ケリー
華麗なるアリバイ パスカル・ボニゼール
10 コップアウト 刑事(デカ)した奴ら ケヴィン・スミス
TSUNAMI-ツナミ ユン・ジェギュン

 

 1位は、「座頭市 THE LAST」で決まり。詳しくは作品評を参照。監督が、デビュー作以来ずっと応援して来た阪本順治であるだけになおさら悲しい。製作者たちが判ってないのは、座頭市映画の面白さは、ブルース・リーのカンフー映画に通じる、ムチャクチャな強さと、荒唐無稽なまでにアクロバティックな居合い抜きの技にあるという点である。この2つが欠けている本作は、座頭市映画とは呼べない。製作者たちには、カツシンの「座頭市」を1作目から見直す事を奨めたい。

 2位は「シュアリー・サムデイ」。冒頭の学校爆破シークェンスを、まるで若者の若気の至り、のように描いている感覚がどうしようもなくダメ。喧嘩や乱闘ならまだしも、これは重大犯罪でしょう。退学で済むわけがなく、当然主人公たちは何年かは刑務所にぶち込まれるべき。あれではバカな中高校生が「爆弾を作って施設を爆破しても大した罪にはならないんだ」と誤解しかねない。三億円強奪シーンも、あまりにも偶然が重なり過ぎ。ともかく脚本がお粗末。演出テンポも出だしこそまずまずだが、後半どんどん失速。ラスト近くの街頭のバンド演奏シーンでは、劇場内にシラーッとした空気が漂って、見ていて痛々しかった。ちなみにプロデューサーは小栗が主演した、これもマイ・ワースト「TAJOMARU」の山本又一朗。山本さん、あなたが作った大傑作「太陽を盗んだ男」の名声をこれ以上汚さないでください。お願いだから。

3位は誰かが私にキスをした」。これ、アメリカ人監督が日本を舞台に撮ってるのだけれど、セリフがどう聞いても普通の日本人の会話になっていない。どうも最初英語で書かれた脚本を、そのまま翻訳しただけのようだ(脚本クレジットはガブリエル・ゼヴィン)。誰か日本のシナリオ・ライターが加わって手直しすべきだったのでは。それだけならまだしも、せっかくのヒロインの記憶喪失が、あまり物語に生かされておらず、何がテーマなのか、何を描きたいのかさっぱり要領を得ない。やはり日本語も、日本の習慣・生活も理解出来ていない外国人監督に日本映画を撮らせる事自体が無理だったのでは。松山ケンイチはさすが頑張ってはいたが。

 4位は「食堂かたつむり」。主人公の作る料理が全然美味しそうに見えない(そういう所にこそ特殊効果を使うべき)。なのに、その料理を食べると誰でも願いが叶い幸せになるという。ほとんどあり得ないおとぎ話の世界。まあ、ケバい映像効果を見ても、この物語がメルヘンでありファンタジーというつもりで撮っているのは分かるが、その割には客を取られた女がサンドウィッチに虫を入れたり、水鉄砲で妊娠(ありえない!)とか、エグいエピソードが出て来るのは少しもメルヘンチックではない。とにかくアンバランスな作り。
 まあそこまでは我慢するとしても、我慢ならないのは、エルメスと名付け、母親が我が子のように愛玩していたブタを解体して食べてしまうくだり。ペットとして愛玩していた動物を、どうして食べられるのか。そりゃ我々人間は家畜を食べて来たのは事実だけれど、食用動物と、ペットとは厳然と異なる存在。1昨年だか、「牛の鈴音」という韓国映画が公開されたが、主人公の老人夫婦は、30年一緒に暮らして来た牛が死んだ時、穴を掘って丁重に埋葬した。ペットではなく、荷車牽引用として飼っていた牛であり、食用にしたって構わないのだが、それでも家族同様に扱って来た牛を食べたりはしなかった。これが普通の感覚である。まあそんな内容の原作自体が酷いものなのだが。誰が映画化しようと思いついたのだろうか。気分悪さでは1番であった。

 5位は踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!」。なんだか作る度に酷くなっている。ダラダラと、どうでもいい話で引っ張ってるだけ。青島が病気と勘違いする話なんて、本筋と関係ないし全く不要。退屈極まりない出来である。もうシリーズは打ち止めにすべきだろう。本広克行はここ数年、「UDON」、「少林少女」、「曲がれ!スプーン」と作る作品が駄作ばかり。反省して欲しい。

 6位「死刑台のエレベーター」。詳細は作品評参照。古典的名作は、リメイクするべきではないと思う。ましてや現代の日本に舞台を置き換える事自体無謀。「太陽がいっぱい」をリメイクした「リプリー」もつまらなかったしね。

 7位「マザーウォーター」。「かもめ食堂」のスマッシュヒット以来、似たような癒し系映画が続出しているが、中味が伴っていない亜流作品が多い。本作も残念ながらその部類。
 この映画には、ドラマチックな展開がない。登場人物たちは、ただ歩いて、食べて、寄り道して、会話して…そうした単調な日常が最後まで延々繰り返されるだけ。退屈で眠くなって来る。「かもめ食堂」が面白かったのは、異国に出店した食堂をいかに成功させるか、という一応のドラマがあり、かつトボけたユーモアを適度に配置するなどの、演出上の工夫が凝らされていたからである。本作は、監督(
松本佳奈)、脚本(白木朋子・たかのいちこ)とも、あまり実績のない新人が手掛けている為か、演出は単調で、ユーモアにも乏しく、なんともメリハリのない凡作になってしまった。新人監督には荷が重過ぎた、と言えるだろう。プロデューサー・企画者が「かもめ食堂」「プール」等と同じなので、柳の下のドジョウを狙っての事だろうが、もうそろそろ、新しい発想に切り替えるべきでは。観客は、映画館でスヤスヤ眠りたい人ばかりではないのだから(笑)。

 8位「運命のボタン」。原作は「アイ・アム・レジェンド」等で知られるリチャード・マシスンの短編。ボタンを押せば、誰かが死ぬ代わりに100万ドルが受け取れるという寓話めいたお話で、誰かが「笑うせぇるすまん」だ、と言ってたが、なるほど言い得て妙だ(笑)。30分テレビドラマの「トワイライト・ゾーン」あたりで放映したら面白いかも知れないが、長編映画にするにはちょっと無理がある。で、どうしたかと言うと、後半がなんとSFになってしまうのには唖然となった(珍奇なる怪作「フォーガットン」を思い出した)。このお話は理詰めでなく、因果応報の寓話だから面白いので、原作のラストには実に皮肉なオチが用意されていて唸ったのだが、映画は原作の持ち味ぶち壊しである。本作にガックリ来た人には、口直しに是非原作を読む事をお奨めする。立ち読みしても10分で読めます(笑)。

 9位「華麗なるアリバイ」。どこがアリバイなんだか。アガサ・クリスティ原作にこのタイトルで、大抵の観客が予想する期待をまんまと裏切ってくれた。詳細は作品評を参照。

 10位コップアウト 刑事(デカ)した奴ら何よりも、まずこのくだらないタイトルが減点ものだ。ブルース・ウイリスが出てる刑事もの、という期待をこちらも裏切ってくれる。困るのが、王道刑事ものでもなく、かと言ってバカバカしいB級おバカ・コメディにも徹していない中途半端さである。どうせコメディにするなら、「ホット・ファズ 俺たちスーパー・ポリスメン」ぐらいに徹底すべきであった。ちなみに発売されているDVDではタイトルは「コップアウト」だけに修正されていた。

 次点「TSUNAMI-ツナミ」。VFXはなかなかの迫力なのだが、お話がなんともお粗末。悲惨な災害のはずなのに、コメディとしか思えないような描写もあるし。そもそも、ビルの高層階のエレベーター内で、水位がジワジワ上がるなんてあり得ない。赤いマフラーかなんかが、元の場所に残ってるなんて事もあり得ない。船だって数百メートル先に押し流されてるだろうし。突っ込みどころだらけである。

 
 さて、今年も上位7位までが日本映画(もっとも、3位は監督は外国人なのだが)。毎度の事ながら、困った事である。特に本年度は、阪本順治、緒方明という、毎年力作を発表する期待の実力派監督の作品が入ってるのだから余計辛い。2011年には、是非名誉挽回を期待したい。

なお、「エアベンダー」、「パラノーマル・アクティビティ」、「セックス・アンド・ザ・シティ2」、「矢島美容室 THE MOVIE」、「BECK」、「恋するナポリタン」、「東京島」、「インシテミル 7日間のデスゲーム」は、酷い作品の予感がしたので観る気が起きず、未見。が、あちこちのワーストテンで槍玉に上がってるようなので、ほぼ予感は的中したようだ。観てたら、10本じゃ収まらなかった(笑)。

        Top Pageへ戻る        Best10アラカルト 目次へ     このページのTopへ